名門・東京外国語大学教授陣による、世界の食文化紹介
「食」を主題にした、名門・東京外国語大学の教授陣による寄せ集め随筆集。執筆担当の教授陣が、それぞれの専門地域の食文化について随筆と簡単なレシピで紹介する。ロシアのように支配者の力を誇示するための食卓もあれば、戦争続きというセルビアの状況下で育まれた一皿、ミャンマーやフィリピンなど暑い国ならではの調理法工夫など、紹介される料理同様、随筆の切り口は様々。
食文化は、戦争の耐えぬ土地に生きることの美学であり、哲学なのである。(中略)
フランスやイタリアなど貴族文化のもとに食文化を発展させてきた国とは異なり、セルビアの料理は繊細ではないし、器の色彩や形にこだわったり切り方に工夫をしたり、視覚的な微を追求することもない。だが村文化に発するセルビア料理は、食べて生きるという人間の課題に、まっすぐに応えている。
過酷な背景を持つセルビアの章がしみじみと良い。語り口にセルビアへの愛を感じる。また、タガログ語の[接中語]なる概念は初めて知った。学生時代、ルーマニア語を学び始めた頃に[定冠詞が名詞の後にくっ付く!]ことを知った時以来の語学的衝撃だった(サンスクリット語には格が7つあることを知った時も眩暈がした)。語学及び料理好きとしては眺めているだけでも楽しい1冊だが、誤植が散見されたのは残念。
目次
※以下、()は執筆者名
- まえがき
東アジア
- 中国料理 ~大運河の遺産―江蘇随一の名菜揚州料理(川島郁夫))
- 韓国料理 ~韓国流おもてなしの二枚目役、ジョン(南潤珍)
- 台湾料理 ~台湾B級グルメ、屋台料理(谷口龍子)
- モンゴル料理 ~これぞ遊牧民の知恵の結晶(岡田和行)
- 世界にひろがる日本料理 東アジア編
東南アジア
- ベトナム料理 ~いろいろ妄想しながら米製麺を食べてみる(野平宗弘)
- カンボジア料理 ~ダイチと川の恵みを人との絆で味わう(岡田和子)
- ラオス料理 ~ちゃぶ台を囲む「もち米」の和(鈴木玲子)
- タイ料理 ~世界一の美食マッサマン・カレー(宮田敏之/スニサー・ウィッタヤーパンヤーノン)
- ミャンマー料理 ~「スィー・サン・サー」に吹く新しい風(土佐桂子)
- フィリピン料理 ~やさしい国のおいしい料理(長屋尚典)
- マレーシア料理 ~海の十字路の食文化―その多彩さとつながり(左右田直規)
- インドネシア料理 ~早い、安い、旨い、三拍子そろったパダンの味(青山亨)
- 世界に広がる日本料理 東南アジア編
南アジア、西アジア
- ベンガル料理 ~キチュリってなに?(丹羽京子)
- インド料理 ~たかがカレーと侮るなかれ(水野善文)
- イラン料理 ~色彩豊かな宝石箱でおもてなし(佐々木あや乃)
- アラブ料理 ~知られざる食の宝庫(八木久美子)
- トルコ料理 ~イスタンブルで囲む優美な食卓(林佳世子)
東ヨーロッパ、中央ヨーロッパ
- ロシア料理 ~東西の食文化を呑み込む大きな胃袋(沼野恭子)
- リトアニア料理 ~すりおろしじゃがいもと蜂蜜への深い愛情(櫻井映子)
- セルビア料理 ~仲間で囲むよき食物(山崎佳代子)
- ポーランド料理 ~自然素材にこだわった手づくりの伝統(森田耕司)
- ドイツ料理 ~ソーセージ王国?もっと多彩なドイツのキッチン(山口裕之/西岡あかね)
- 世界に広がる日本料理 東ヨーロッパ編
西ヨーロッパ、南ヨーロッパ
- フランス料理 ~多様性の饗宴(博多かおる)
- イタリア料理 ~パスタとともに生きる(小田原琳)
- スペイン料理 ~海と大地と太陽の恵みを食べる(久米順子)
- イギリス料理 ~シンプルゆえの美味、伝統家庭料理(狩野キャロライン)
- ポルトガル・ブラジル料理 ~ポルトガルとブラジルの国民食 タラとフェイジョン(武田千春)
アメリカ、オセアニア、アフリカ
- アメリカ料理 ~シンプルなおいしさの追求(鶴田知佳子)
- オーストラリア・ニューギニア料理 ~基本は「素材で勝負!」(山内由理子)
- アフリカ料理 ~ともに食べ、ともに生きる(坂井真紀子)
- 「文化の翻訳」としての世界料理
- 執筆者紹介
本書で言及されている書物
- 13 「資治通鑑」司馬光
- 13 「隋煬帝艶史」
- 13 「通俗隋煬帝外史」西田維則
- 14 「食経」伝・謝諷撰
- 41 「ベトナム飲食文化辞典」
- 41 「越南字典」
- 43 「逆流」トゥー・モー
- 60 「タイ文化事典・中部タイ版」
- 77 「マッ・ソム」ラット
- 92 「キチュリ」シュクマル・ラエ
- 94 「母」アニスル・ホク
- 98 「般若心経」
- 99 「チャラカ・サンヒター」インド医学書:5世紀には成立していたとされる
- 100 「実利論(アルタ・シャーストラ)」カウティリヤ
- 100 「マハーバーラタ」
- 101 「パーカ・ダルパナ」
- 112 「私の祖母の台所」メフダーウィー
- 114 「大旅行記」イブン・バットゥータ
- 120 「無作法者の書」
- 126 「セレブリャヌィ公」アレクセイ・K・トルストイ
- 127 「料理法大百科」V・V・ポフリョプキン
- 130 「アンナ・カレーニナ」レフ・トルストイ
- 145 「パン・タデウシュ」アダム・ミツキエヴィチ
- 162 「ゴリオ爺さん」オノレ・ド・バルザック
- 163 「幻滅」オノレ・ド・バルザック
- 164 「美味礼賛」ブリア=サヴァラン
- 164 「老嬢」オノレ・ド・バルザック
- 165 「獲物の分け前」エミール・ゾラ
- 165 「野あそび」ギ・ド・モーパッサン
- 165 「従兄ポンス」オノレ・ド・バルザック
- 166 「ブルジョワ家庭の女料理人」ムノン
- 166 「三銃士」「大料理事典」アレクサンドル・デュマ
- 167 「ペルル嬢」ギ・ド・モーパッサン
- 167 「失われた時を求めて」マルセル・プルースト
- 169 「パリの夜」レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ
- 191 「100以上のタラの料理法」
- 199 「Good Housekeeping Cookbook」
- 217 「世界文学『食』紀行」篠田一士
本書で紹介されているレシピ
- 中国料理 揚州風卵チャーハン/揚州風肉団子スープ
- 韓国料理 エホバク・ジョン(韓国ズッキーニのジョン)/コギ・ジョン(肉のジョン)/ノクトゥ・ジョン(緑豆のジョン)
- 台湾料理 滷肉飯(豚そぼろご飯)/割包(台湾風バーガー)
- モンゴル料理 ボーズ(包子、モンゴル風蒸し餃子)/スーテイ・ツァイ(乳茶、モンゴル風煮出し紅茶)
東南アジア
- ベトナム料理 ハイくん家のフォー
- カンボジア料理 カンボジア汁で食べるノム・ボンチョック(具だくさんの米麺料理)
- ラオス料理 ラープ(そぼろ)/タム・マークフン(パパイヤサラダ)
- タイ料理 マッサマン・カレー
- ミャンマー料理 モヒンガー寄進用レシピ(淡水魚スープの米麺)/チェッター・スィービャン(鶏肉の油煮)
- フィリピン料理 ポーク・アドボ(豚肉の煮込み)/ギナタアンビロビロ(ココナツミルクのデザート)
- マレーシア料理 ナシ・ルマッ(ココナツミルクの炊き込みご飯)/サンバル・トゥミス(揚げカタクチイワシの炒め物)
- インドネシア料理 ルンダン・ダギン・サピ(牛肉のカレー風煮込み)/サテ・アヤム・マドゥラ(鶏肉の串焼きピーナッツソース)
南アジア、西アジア
- ベンガル料理 キチュリ(ベンガル風おじや)/魚のバジャ(揚げ魚のターメリック風味)
- インド料理 チャナー・ダール(ひよこ豆のスープ)
- イラン料理 ホレシュテ・フェセンジャーン(柘榴と胡桃の煮込み)/チェロウ(塩味のバターライス)/キャバーベ・クービーデ(羊挽肉のキャバーブ)
- アラブ料理 シーシ・カバーブ/コシャリ(ご飯とパスタとレンズ豆のトマトソースがけ)
- トルコ料理 ヒュンキャール・ベエンディ(羊肉のシチュー焼き茄子ピューレ添え)
東ヨーロッパ、中央ヨーロッパ
- ロシア料理 塩漬け茸/モスクワ風ボルシチ
- リトアニア料理 ツェペリナイ(リトアニア風じゃがいも団子)/ジャガレーレイ(リトアニア風かりんとう)
- セルビア料理 チョルバ・オト・グラシカ(グリンピースのスープ)/クプス・サ・メーソム(キャベツと肉の煮込み)
- ポーランド料理 ビゴス(キャベツ・漬物・肉の煮込み)/セルニク(ポーランド風チーズケーキ)
- ドイツ料理 グーラッシュ(ハンガリー風牛シチュー)/ウィーン風カツレツ
西ヨーロッパ、南ヨーロッパ
- フランス料理 カナール・オ・ゾリーヴ(鴨のオリーヴ煮)/ラタトゥイユ/ブッフ・ミトロン
- イタリア料理 スパゲッティ・アッラ・ナポレターナ/カネーデルリ(パンから作るパスタ)/スパゲッティ・アッラ・カルボナーラ
- スペイン料理 マルミタコ(鰹とじゃがいもの煮込み)/ソパナホ(にんにくスープ)
- イギリス料理 アップル・クランブル/シェパーズ・パイ/クリスマス・プデイング
- ポルトガル・ブラジル料理 フェイジョアーダ・コンプレッタ(豆と肉の煮込み)/カイピリーニャ(ラムとライムのカクテル)
アメリカ、オセアニア、アフリカ
- アメリカ料理 ステーキサンドイッチ/ニューヨーク・チーズケーキ
- オーストラリア・ニューギニア料理 パヴロヴァ(メレンゲケーキ)
- アフリカ料理 鶏肉シチューとウガリ/ウガリ(白とうもろこしの練り物)/チェブジェン(魚と野菜の炊き込みご飯)/パームナッツスープとフフ/フフ(ヤムイモ、キャッサバなどの澱粉の練り物)