パリ地下で見つかったトーマス・ジェファーソンのワイン、200年物を巡る騒動記
米国第3代大統領、トーマス・ジェファーソン。個人的には大統領としての仕事よりも、美食家にして色好みの印象の方が強い。彼はマッケンチーズを米国に持ち込み、アイスクリームを愛し、フレンチフライを自国内に広め、且つワイン通でもあった。
本書はそのジェファーソン大統領が購入したという葡萄酒を巡る20世紀末の騒乱を描く。2世紀を経たと推定されるボトル(中身入り!)は、世界中でワイン熱が高まった時代にパリの地下で偶然「発見」され、クリスティーズの競売ではワインの値段として過去最高額を叩き出すが…。
ブロードベントはそれまで今回のようなものを売ったことはなかった。シャトー・ラフィット一七八七年――これはクリスティーズで競売にかけられたなかで、最も古いと認められたヴィンテージの赤ワインである。しかも、価値は古さだけではなかった。ボトルには、”Th.J.”という頭文字が刻まれている。ブロードベントが競売の目録に記していたように”Th.J.とはトーマス・ジェファーソンの頭文字である”。あたかも奇跡のように、ボトルには中身が全量残ったまま、二世紀のあいだ手つかずの状態で生きながらえたのである。
以降次々とオークション会場に姿を見せる骨董品級のワインボトルは、世界経済の盛り上がりと共に値段はどんどん吊り上がってゆく。その熱狂は次第に、一部の愛好家たちの間に偽物ではないかとの疑惑を生ぜしめた。売り手の信用で成り立っていた商売は、次第に科学的根拠が求められるようになっていく。はじめは瓶、ラベル、コルク。そうして中身に至るまで。
飲み物として生み出されたはずのワインは世紀を超え、単なるアルコホルの枠を超越した何ものかに変貌してゆく様は、どこか錬金術めいていて非常に面白い。全体的に紗がかけられたかのようなワインの世界の一端を覗き見する快楽が味わえる1冊。面白い。お薦め。
目次
- 1 ロット337
- 2 お忍び
- 3 宝探しの狂乱
- 4 ムシュー・イケム
- 5 来歴
- 6 「言われたことをやりました」
- 7 想定される価値
- 8 死の芳香
- 9 サラダ・ドレッシング
- 10 口当たりのよい染みだが、偉大ではない
- 11 ワイン探知人
- 12 わかりやすもの志向
- 13 放射線
- 14 偽名の手紙
- 15 「偽物があふれている」
- 16 最後の垂直テイスティング
- 17 コークのボトル
- 18 幽霊粒子
- 19 マインハルトを追え
- 20 フィニッシュ
- 謝辞
- 注