味覚を支える重要な要素に、嗅覚が含まれることは周知のとおり。ヒトが味わいを感知するのに、嗅覚の齎す「風味」の担う役割は大きい。本書ではその嗅覚、しかもそのうちのレトロネイザル経路(飲食物を口に含んだ際、口内から鼻腔へと抜ける道筋のこと。くんくんと鼻から息を吸う場合だけでなく、ヒトはこのレトロネイザル経路からも匂いを感知する)を中心に、ヒトが味を感じる仕組みについて考察していく。
栄養摂取の必要によって、人類は古い段階から嗅覚を発達させてきた。傷んだものや毒物を識別するのに嗅覚は重要だった。現生人類の脳においても嗅覚に関連する領域は脳の前部に集中、古い脳に組み込まれ、視床を介さず知覚される。嗅覚は何となく腸に似ているように思う。多分に生物学寄りの題目だけれど、丁寧な説明及び訳注が付されており、文系の私が読んでも難しい点は特にない。そして訳文の端正な日本語が好ましく、印象に残った。
目次
- はじめに 味わいは脳の創造物である
- 序文 新しい風味の化学「ニューロ・ガストロノミー」
- 第1章 においと風味の研究の革命
- 第2章 犬と人間の嗅覚を比べる(レトロネイザル経路に注目)
- 第3章 口が脳をたぶらかす
- 第4章 風味の分子
- 第5章 におい分子の受容体
- 第6章 感覚イメージの形成
- 第7章 においの空間パターン
- 第8章 においは顔に似ている
- 第9章 においのイメージは点描画
- 第10章 イメージの強調
- 第11章 嗅皮質への注目
- 第12章 嗅覚と風味
- 第13章 味覚と風味
- 第14章 マウス・フィール(口中での質感)
- 第15章 視覚と風味
- 第16章 聴覚と風味
- 第17章 風味を生む筋肉
- 第18章 知覚系+行動系=ヒト脳風味系
- 第19章 嗜好と渇望
- 第20章 風味と記憶:プルースト再解釈
- 第21章 過食と肥満の原因
- 第22章 風味の神経経済学
- 第23章 ヒト脳風味系の可塑性
- 第24章 言語とのかかわり
- 第25章 意識・無意識とのかかわり
- 第26章 においと風味が人類を進化させた
- 第27章 胎児から老年まで