完本 檀流クッキング檀一雄+檀太郎・晴子

檀一雄+檀太郎・晴子
2016年刊

突き放し系料理本、読み物としても面白い

昨今の料理指南本やレシピに氾濫している文句「絶対に失敗しない」。肩の力が入りすぎ、まるで完璧で抜けのないフルメイクのようで、個人的には好きではない。しかし先日改めて読んだ「完本 檀流クッキング」は、この風潮と真っ向から対立していた。レシピというより、読んで面白い料理随筆集の趣である。そう、料理を作らずとも面白い料理本は貴重だ。


この上からダシをかけ、適当に、砂糖だの、醤油だの、みりんだの、お酒だのを加えるわけだが、自分の好みで、どうにでもなさい。何度もやってみるうちにいい味になるだろう。 引用元:「完本 檀流クッキング」檀一雄 + 檀太郎・晴子

これは「柳川鍋」の味付けの説明部分だが、「どうにでもなさい」と読者をどーんと突き放している。昨今の料理本で、ここまで自由な裁量を読み手に委ねているものは皆無なのではないか。素敵な余白、料理はかくありたし。

本書の原形は、流浪の作家・檀一雄が昭和40年代に産経新聞紙上で連載していた随筆。世界を渡り歩いた料理好きの作家だけあって、出身地以外にも中国や朝鮮、スペインなどの料理が取り上げられている。これに作家の息子、檀太郎・晴子夫妻による再現料理及びレシピが追加された内容となっている。本書前半部に檀一雄の随筆、巻末にそれぞれの詳細/再現レシピという構成は、作家の随筆の面白味を損なわない配慮だろう(但し本文と作り方手順に差異が見られるものもある)。ただ残念だったのは、各随筆の初出年月日が付されていなかったこと。新聞連載らしく季節ネタを多く取り上げているようなのだが、日付がないためにそのあたりの雰囲気が摑み難い。

ケイラン:餡を巻いてから蒸したもの ケイラン:餅生地を蒸してから餡を巻いたもの 湯元:きなこ仕上げ
店主守部による制作例:ケイランと湯元。左は作家の示した手順通り、中は巻末のレシピ通りに作ってみたケイラン。右は湯元にきなこをまぶしたもの

なお、男の料理だからといって必ずしも本式・大がかりなレシピばかりではない。例えば杏仁豆腐はアーモンド・エッセンスやコーンスターチを使っているし、おからや手羽先など安価な材料でさっと作れる料理も掲載されている。本書で取り上げられているのは、各地で作り方を覚え、作家が繰り返し料理し消化し練り上げたレシピなのだろう。伝統とも本格派とも、多分ちょっと違う。【檀流】たる所以である。

目次

  • 「檀流クッキング」に再挑戦   檀太郎
  • カツオのたたき
  • レバーとニラいため
  • 前菜用レバー
  • タンハツ鍋
  • コハダずし
  • 大正コロッケ(+オビ天)
  • バーソー
  • ドジョウのみそ汁と丸鍋
  • 柳川鍋、ウナギの酢のもの
  • シソの葉ずし、メハリずし
  • サケのヒズ漬け、三平汁
  • 柿の葉ずし
  • ヒヤッ汁
  • アジゴマみそのデンガク
  • ユナマス
  • カレーライス(西欧式)
  • カレーライス(インド式)
  • カレーライス(チャツネのつくり方)
  • ピクルス
  • 鶏の手羽先料理
  • 干ダラとトウガンのあんかけ
  • イモ棒
  • 獅子頭
  • ローストビーフ
  • キリタンポ鍋
  • ボルシチ
  • サフランご飯
  • オニオンスープ
  • アナゴ丼
  • 魚のみそ漬け
  • クラムチャウダー
  • からしレンコン
  • 牛タンの塩漬け
  • ダイコン餅
  • 博多じめ
  • タイ茶漬け
  • アンコウ鍋
  • 羊の肉のシャブシャブ
  • ジンギスカン鍋
  • 朝鮮風焼肉
  • 牛豚のモツ焼き
  • ナムル
  • 野菜料理三種/li>
  • 豚の足と耳
  • 麻婆豆腐
  • 朝鮮雑炊と心平ガユ
  • 鯨鍋
  • チャンポンと皿うどん
  • パエリヤ
  • ブイヤベース
  • 具入り肉チマキ
  • タケノコの竹林焼き
  • イカのスペイン風、中華風
  • 「カキ油」いため二料理
  • トンコツ
  • ツユク
  • 梅酢和え、蒸しナス
  • 梅干しとラッキョウ①
  • 梅干しとラッキョウ②
  • インロウ漬け
  • ソーメン
  • 釜揚げうどん
  • ブタヒレの一口揚げ
  • シャシュリークと川マスのアルミ箔包み焼き
  • 鶏の「穴焼き」
  • サバ、イワシの煮付け
  • 小魚の姿ずし
  • トウガンの丸蒸しスープ
  • 鶏の白蒸し
  • 東坡肉
  • イモの豚肉はさみ蒸し
  • オクラのおろし和え
  • キンピラゴボウ
  • ビーフステーキ
  • ビフテキの脇皿
  • 豚マメと豚キモのスペイン風料理
  • ショッツル鍋
  • タイチリ
  • ヨーグルト
  • ヒジキと納豆汁
  • 酢カブ
  • 伊達巻
  • ザワーブラーテン
  • 蒸しアワビ
  • 干ダラのコロッケ
  • 杏仁豆腐
  • 焼餅
  • モチ米団子
  • 牛スネのスープと肉デンブ
  • 牛の尻尾のシチュー
  • スペイン酢ダコ
  • スペイン風と松江の煎り貝
  • ビーフシチュー①
  • ビーフシチュー②
  • アイリッシュ・シチュー
  • タタキゴボウ
  • 餃子
  • タルタルステーキ
  • 乾しナマコとタケノコいため
  • 水貝
  • ヤキメシ
  • アラブの肉団子①
  • アラブの肉団子②
  • エビとソラ豆いため
  • 地豆豆腐、ゴマ豆腐
  • ピロシキ
  • ラーメン
  • 身欠きニシンとネマガリタケの煮ふくめ
  • 葉くるみ
  • タカ菜のさらさらがゆ
  • 煎り煮干し、ラッキョウのみそいため
  • 韓国カヤクメシ
  • イカの筒煮とポンポン炊き
  • 韓国風ゴマ油薄焼き
  • 鶏のタゴス
  • シジミの醤油漬け
  • 挽肉の揚げ煮
  • ビーフン
  • チャプツエ
  • 博多の水炊き
  • 秋サバのゴマ醤油びたし
  • イワシの煮付け
  • アジやイワシのヌカミソ炊き
  • 卵と豆腐
  • アミにダイコンのトロリ煮
  • ビーフ・ストロガノフ
  • アナゴの地中海風
  • アジ、タチウオの「背越し」
  • おでんの袋モノ
  • 白子のみそ鍋
  • 牛アバラの韓国煮
  • そばがきとそば練り
  • 粥三種
  • 炒り卵
  • スネ肉のデンブ
  • イワシのつみ入れ
  • 白菜巻き肉団子
  • 中国風伊達巻
  • 田楽刺し
  • 船場汁
  • フキの煮もの
  • スウェーデン風 馬鈴薯の蒸し焼き
  • 春の白和え
  • ポルトガル風 豚の詰め合わせ焼き
  • ハンゲツ
  • ポークチョップ
  • 湯元
  • 芙蓉蟹
  • 筑紫のケイラン
  • ツァルツェラ
  • そばパン①
  • そばパン②
  • ピローグ
  • アラブ風カレー煮
  • サケとゴボウの卵鍋
  • 大豆のうま煮
  • みそ豆腐
  • 毟り鯛
  • 【番外】ビーツのサラダ
  • あとがき   檀晴子
檀一雄+檀太郎・晴子
2016年刊