昭和天皇のお食事渡辺誠

渡辺誠
2009年刊(2004年刊の単行本「昭和天皇 日々の食」の改題文庫化)
524円+税

慎ましやかにして、世にも美しい一皿

昭和天皇、今上帝、そして東宮(浩宮)の三代に渡り料理を担当した著者が振り返る、禁裏のお食事と自らの料理人人生。同じ主題を扱う秋山徳蔵の著「」が秋山自身の料理人人生を語ることに重心を置いたのに対し、こちらは題名通り特に昭和天皇のお食事に関する記述に重きが置かれている。因みに本作の著者、渡辺誠にとって秋山徳蔵は師匠筋に当たる人(渡辺誠が宮内庁大膳課に入った時の主厨長が秋山徳蔵。渡辺は20代初め、秋山は80代だったそう)。詳しい調理法等は示されていないが、天皇家の日々の献立に興味がある向きにお薦めの一冊。

ごくごく慎ましやかな日々の献立、儀式や行事ごとの晴れやかな食卓。薄布の向こうに隠された昭和天皇のお暮しのほんの一端が、その食を支える裏方の視点で描かれる。繰り返し強調されるのは、材料となる食材の質素ぶり。けれどその扱いは繊細過ぎるほどに丁寧。秋山主厨長の哲学の下、供される一皿一皿がいかに美しく心豊かなものであったのかが行間を通じて匂いたつ。天皇家のしきたりでは料理人が直に食卓の場に臨むことはできず、すぐ脇の控えの間から漏れ聞こえる声を伺うのみ。姿の見えない主の「おいしいね」の一言と、空になったお皿をもって無上の喜びとする。その光景は何だか古風な恋愛譚を見ているようで、どこか歯痒くも美しく心温まる思いがする。

著者の親友だったという、映画監督の大林宣彦による巻末解説が泣かせる。

目次

※以下、()内に各章にて言及のある人物を登場順に示す。初出のみ。敬称略
  • 第一章 大膳の流儀(昭和天皇、今上帝、東宮、秋山徳蔵、中島伝次郎、増田法一、谷部金次郎)
  • 第二章 日常のお召し上がりもの(昭和天皇皇后、北白川祥子、美智子皇后、角田庄右衛門<日影茶屋当主>、ミッテラン大統領夫妻、西川恵<元毎日新聞特派員>)
  • 第三章 天皇家の三が日(常陸宮、高松宮、三笠宮、大正天皇・皇后、礼宮、紀宮)
  • 第四章 天皇の料理番への道(福永泰子、根津鬼子郎、多田鉄之助、村上信夫、柴田和郎、明治天皇、鷲津省三)
  • 第五章 大膳の人々(エリザベス女王、斎藤文次郎、小野正吉、古谷春雄)
  • 第六章 皇太子殿下の思い出(キッシンジャー米国務長官、ジスカール・デスタン元仏大統領)
  • 解説にかえて 大林宣彦(赤川次郎、荻昌弘、久石譲、伊勢正三、峰岸徹)

本書で言及された禁裏の食文化

  • 89 御祝先付(元旦朝の儀式)
  • 90 浅々大根、菱葩、雉子酒、大福茶
  • 94 晴れ御膳、御高盛、御平盛
  • 102 御祝御膳、入夜御盃
  • 108 浜千鳥(蒸羊羹)

本書で言及されている書物

  • 77 「エリゼ宮の食卓」西川恵
  • 164 「新フランス料理全書」秋山徳蔵

本書で言及されている食物関係のお店

※本書記載の名称ママ
  • 72 日影茶屋(葉山)
  • 128 三平食堂(洋食/新宿)、須田町食堂(洋食/神田)、楽天(トンカツ/御徒町)
  • 136 帝国ホテル(日比谷)
  • 138 高輪プリンスホテル(高輪)
  • 147 白金迎賓館(白金)
  • 153 エアポートホテル(ジュネーブ)
  • 159 三喜屋(肉問屋/九段)、本家ぽん多(トンカツ/上野)、三太(トンカツ/新宿)
  • 166 村上開新堂(菓子/京都)、オリエンタルホテル(神戸)
  • 167 ホテル・オークラ(虎ノ門)、ルコント(フランス菓子/六本木)
  • 175 大原(料亭/芝神明)

書籍情報

渡辺誠
2009年刊(2004年刊の単行本「昭和天皇 日々の食」の改題文庫化)
524円+税