牛はその用途によって名を変える
フランス文学者である著者が日々の暮らしで心に引っかかりを覚えた事柄について、仮説を通じて検証していく1冊である。まずお断りしておねばならないのは、この本は食物のみを取り扱っている訳ではないということ(食物メインの章は「出世牛」、「牛肉食い vs. カエル食い」、「緑の妖精」、「パリの焼き鳥横丁」、「紅茶 vs. 珈琲」の5篇)。…ただ、取り上げる題材の振幅が大きいことと、時折論理が思い切り自由に羽ばたくことを最初にお知らせしておく。
更に誤解があるといけないのではっきり申し上げるならば、本書はしれっと尾籠、お茶を飲みつつ読むには全く適さない章も多々含まれている(詳しくは下段【目次】からお察しを)。ただそうしたことを差し置いてもこの本が魅力的であり、且つ最下層の下品にまで堕さないのは、著者の圧倒的な読書量に裏打ちされた知識があってこそのことだろう。論理の飛躍も省略も、全て計算づくであるといった風の飄々と冴える筆がどうにも可笑しい。この人の随筆を読むと、無性に本が読みたくなる。
目次
- SMと米俵
- 出世牛 (店主附記:フランス人の「牛」の見方について、その呼称からの考察)
- セミとキリギリス
- ビデ
- 皮と革
- 他人の●● (店主附記:個人的禁忌語に抵触するため伏字とする)
- 由緒正しい戦争
- フロイトと「見立て」
- 牛肉食い vs. カエル食い (店主附記:英国人とフランス人の食文化の違いについての考察)
- 売られたエッフェル塔
- 消えた便所
- 愛とはオッパイである
- 長茎ランウェイ学説
- ナポレオンの片手
- 情死はソフトの借用?
- 平均顔
- ウソは夢を含む
- セーラー服の神話
- 緑の妖精 (店主附記:アブサント/アブサン/ニガヨモギのリキュールの階層別受容史についての考察)
- 黙読とポルノ
- 「グサッ」と聖性
- 贋作の情熱
- パリの焼き鳥横丁 (店主附記:パリにおける外国料理屋についての考察「何故まずいのか?」)
- 「男」はつらいよ
- ティッピング・ポイント
- 紅茶 vs. 珈琲 (店主附記:英国では紅茶、フランスでは珈琲が定着した理由についての考察)
- あとがき
本書で言及されている書籍
※数字は初出の頁数- 14 「月刊プレイボーイ」「奇譚クラブ」「裏窓」
- 15 「蛇のみちは ―― 団鬼六自伝」団鬼六著/幻冬舎アウトロー文庫
- 16 「極楽商売 ―― 聞き書き戦後性相史」下川耿史著/筑摩書房
- 19 「フランスことば事典」松原秀一著/講談社学術文庫
- 27 「ラ・フォンテーヌの寓話」
- 31 「昆虫記」ファーブル
- 32 「バイカルチャーものがたり」大矢タカヤス著/近代文芸社
- 34 「伊曾保物語」
- 36 「クラウン仏和辞典」三省堂
- 40 「われらの時代」大江健三郎
- 45 「幻滅」バルザック著/生島遼一訳
- 47 「恋の文学誌 ―― フランス文学の原風景をもとめて」月村辰雄著/筑摩書房
- 56 「匂いの身体論 ―― 体臭と無臭志向」鈴木隆著/八坂書房
- 62 「陰翳礼賛」谷崎潤一郎著
- 62 「夜の森」デューナ・バーンズ著
- 66 「1945年・ベルリン解放の真実 ―― 戦争・強姦・子ども ――」ヘルケ・ザンダー&バーバラ・ヨール編/寺崎あき子・伊藤明子訳/パンドラ
- 66 「北の十字軍『ヨーロッパ』の北方拡大」山内進著/講談社選書メチエ
- 70 「舞台・ベルリン 占領下のドイツ日記」ルート・アンドレアス-フリードリヒ著
- 72 「本の話 1999年1月号」文芸春秋社PR誌
- 75 「蒐集」ジョン・エルスナー&ロジャー・カーディナル編/高山宏・富島美子・浜口稔訳/研究社
- 76 「精神分析用語辞典」ラプランシュ&ポンタリス/みすず書房
- 81 「海峡を越えて」ジュリアン・バーンズ著/白水社
- 82 「世界食物百科」マグロンヌ・トゥーサン=サマ/玉村豊男監訳/原書房
- 83 「ロベール辞典」
- 84 「家なき子」エクトール・マロ著/佐藤秀吉訳
- 87 「悪食大全」ロミ/高遠弘美訳/作品社
- 90 「詐欺とペテンの大百科」カール・シファキス著/鶴田文訳/青土社
- 100 「羞恥の歴史 ―― 人はなぜ性器を隠すか」ジャン=クロード・ボローニュ著/大矢タカヤス訳/筑摩書房
- 102 「回想録」サン=シモン
- 105 「においの歴史」アラン・コルバン著/鹿島茂訳/藤原書店
- 107 「人間の性はどこから来たのか」榎本知郎著/平凡社
- 117 「セックスはなぜ楽しいか」ジャレド・ダイアモンド著/長谷川寿一訳/草思社
- 125 「ナポレオンの生涯」ティエリー・レンツ著/福井憲彦監修/遠藤ゆかり訳/創元社
- 125 「ナポレオン暗殺」ルネ・モーリ著/石川宏訳/大修館書店
- 129 「ナポレオン 人心掌握の転載」長塚隆二著/文春文庫
- 130 「世界のギャラリー」ゴーティエ・ダゴティ
- 134 「江戸の性風俗 ―― 笑いと情死のエロス」氏家幹人著/講談社現代新書
- 138 「失楽園」渡辺淳一著
- 143 「養老孟司・学問の格闘」日本経済新聞社
- 144 「顔を読む ―― 顔学への招待」レズリー・A・ゼブロウィッツ著/羽田節子・中尾ゆかり訳/大修館書店
- 152 「フランス人この奇妙な人たち」ポリー・プラット著/桜内篤子訳/TBSブリタニカ
- 161 「フランス人の自画像」
- 165 「名画とファッション」深井晃子著/小学館
- 171 「酒飲みの社会史 ―― 19世紀フランスにおけるアル中とアル中防止運動」田中正人・田川光照・柴田道子訳/ユニテ
- 181 「読書の歴史 ―― あるいは読者の歴史」アルベルト・マングェル著/原田範行訳/柏書房
- 187 「ザ・ヌード」ケネス・クラーク著/高階秀爾・佐々木英也訳/美術出版社)
- 188 「西洋美術館」小学館
- 189 「ゴシックとは何か ―― 大聖堂の精神百選」酒井健著/講談社現代新書
- 193 「エロチシズム」ジョルジュ・バタイユ
- 195 「お騒がせ絵師自伝 ―― わが芸術と人生」エリク・ヘボーン著/立原宏要訳/朝日新聞社
- 198 「図説 本と人の歴史事典」高宮利行・原田範行著/柏書房
- 202 「ある十九世紀蝶冊子の本質に関する調査」ジョン・カーター&グレアム・ポラード
- 209 「パリを遊びつくせ!」石橋美砂・にむらじゅんこb.著/原書房
- 213 「Missダンディ 男として生きる女性たち」外山ひとみ著/新潮社
- 223 「ティッピング・ポイント ―― いかにして『小さな変化』が『大きな変化』を生み出すか」マルコム・グラッドウェル著/高橋啓訳/飛鳥新社
- 232 「楽園・味覚・理性 ―― 嗜好品の歴史」ヴォルフガング・シヴェルブシュ著/福本義憲訳/法政大学出版局