味 - 天皇の料理番が語る昭和秋山徳蔵

秋山徳蔵
2005年刊(1955年に東西文明社より刊行されたものの文庫化)
762円+税

天皇の料理番としての人生

大正・昭和にかけ、長らく主厨長として宮中の御膳を預かった著者の追想記。西洋料理との幸福な出会い、シベリア鉄道経由での欧州修業、大正天皇即位の饗宴、戦時下禁裏の倹しい食糧事情、終戦後の屈辱…。世情が大きく変化していく中、一貫して変わらないのは著者の料理に対する熱情であり、それが本作を屋台骨として支えている。行間からは職人の厳しい目が覗くが、添えられた著者の写真はどこか腕白坊主の面影を残していて、それが何とも良いお顔。著者と親交があったという吉川英治による序文に「老童子」の表現が見えるが、正にその表現にぴったりの風情。

本書では宮中での献立を具体的に解説するというより、その御膳を取り巻く人々/事物に紙幅を割く。清朝最後の皇帝宣統帝(愛新覚羅溥儀)、王冠を賭けた恋で知られるエドワード八世など世界の貴顕に関する思い出の他、食べ物に関する御所言葉や、皇室と食物に関わるエピソードなども収める。光孝天皇が食通であられたということは本書を通じて知った。そういえば百人一首「君がため春の野に出でて若菜摘む…」の若菜は人日の節句の七草粥のためのもの、と思い至りすっきり腑に落ちた。

昭和天皇の実際の御膳については、渡辺誠「昭和天皇のお食事」の方がテーマを絞っている分、判り易くまとめられている。渡辺誠さんも宮内庁大膳課に勤務された方で、秋山主厨長の後輩に当たるそう(20代初めの渡辺さんが宮内庁に入られた時、秋山主厨長は80の齢を超えていた)。

目次

  • 序 著者へ贈る 吉川英治
※以下、()内に各章にて特に言及のある人物を示す

黄金の箸と黄金の皿

  • 黄金の端と黄金の皿(林権助)
  • バッキンガム宮殿の饗宴
  • 小坊主からコックへ
  • コック修業今昔談
  • 盗みだした献立(西尾益吉:築地精養軒料理長)

ヨーロッパ庖丁修業

  • シベリア鉄道赤毛布
  • ベルリンで教わった喧嘩作法(渡辺銕蔵)
  • 玄人の修業と素人の稽古
  • スープ鍋をぶちまける
  • ジュードー武勇伝
  • 大日本帝国大使館缶詰給与
  • コックの社会的地位について(オーギュスト・エスコフィエ<オテル・リッツの料理長>)

大膳頭 福羽先生

  • 松の廊下宮中版(福羽逸人)
  • 果物の大恩人(大隈重信)
  • 大正天皇の御大礼
  • 鶴庖丁

果物の味

  • 日本産デリシャス第一号(齋藤義政<銀座千疋屋主人>、ジョナサン・チャプマン<ジョニー・アップルシード>)
  • 百果の王コミス(木村太一郎<ハネデューメロン栽培>、大原総一郎)
  • 天下に一本 八百才の果樹

天皇のお食事

  • 七分づきに丸麦(昭和天皇、一木喜徳郎)
  • 真心がつくる味
  • わが料理に悔いなし
  • 天皇のお食事(昭和天皇、香淳皇后)
  • 皇室の配給生活
  • 陛下にさしあげた郷土料理

中国の謎

  • 宮廷料理お毒味のこと(清朝宣統帝<愛新覚羅溥儀>)
  • 中国料理の秘薬
  • 底知れぬ大人の国

饗宴にうつる歴史の影

  • 紳士の国の皇太子(英国エドワード八世<当時は皇太子>)
  • うつりかわる饗宴(農学博士・川島四郎)
  • 食べものの御所言葉
  • むかしむかしの宮中料理(磐鹿六雁命、景行天皇、日本武尊)
  • 食通・光孝天皇
  • 西園寺公望公の舌(有栖川宮熾仁親王、甘露寺受長、西園寺八郎)

終戦前後覚え書

  • 終戦前後の宮中食生活
  • 禿頭のキスマーク(永田 雅一)
  • アメリカは味覚の四等国

日本の美味

  • 芸術作品・日本の牛
  • 料理の修業は鼻の修業
  • 苔がつくる鮎の味
  • 酒で洗った酒樽

人生は料理なり

  • 忘れ得ぬ二人の婦人(貞明皇后、入江為守)
  • 菊池寛氏と吉川英治氏
  • 料理屋のまちがい
  • 料理芸術論
  • 人生は料理なり
  • 附・完全な食卓作法

中公文庫版巻末付録

  • 追想 ――― 秋山主厨長との出逢い 谷部金次郎
  • 秋山徳蔵 写真図鑑
  • 索引

書籍情報

秋山徳蔵
2005年刊(1955年に東西文明社より刊行されたものの文庫化)
762円+税